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Trans+ Identity Words Project ~カナダと日本を比較しながら~

報告文「Trans+ Identity Words Project ~カナダと日本を比較しながら~」

この分科会では、千葉大学文学部の鶴田幸恵さんに、北米におけるトランスジェンダーのオーラルヒストリーアーカイブスの紹介と、日本での取り組みについてお話頂いた。
鶴田さんが滞在中のビクトリア大学には、世界最大のトランスジェンダーのアーカイブスがあり、世界中からトランスジェンダーについての関係資料が集められ収蔵されている。その資料は、デジタル化して管理公開されており、ディスカバリーツールというサイトから、年代や資料種類、キーワードなどで検索が可能である。更に、紙媒体は画像化されており、世界中どこにいてもスキャンされたそのままの資料をダウンロードすることができるという太っ腹ぶりだ。是非リンクからチェックしてみて欲しい。それから、北米の3つのトランスジェンダーのオーラルヒストリー・アーカイヴ・プロジェクトについてご紹介頂いた。それぞれ実際にWebサイトを開き、どのようなインタビューか映像を見ながら鶴田さんが解説して下さった。音声だけのものもあったり、スクリプトが公開されていたり、キーワード検索できるようにもなっている。それらのアーカイブスを合わせると、トランスジェンダー当事者300人ぐらいのインタビューが無料で見放題ということであり、研究者にとっても当事者にとっても非常にありがたいことだ。

鶴田さんがカナダでオーラル・ヒストリー・アーカイブに取り組もうと思った動機は、長年の研究で多くのインタビューをしてきたデータが、匿名であったり、非常に限られた範囲の発表であったりすることについて、搾取のように感じ、葛藤を抱いてきたからだそうだ。そしてまた、Trans+の人びとを匿名化したままにすることは、その人たちを匿名化してしか扱えないという社会の姿勢を、自分も引き受けてしまうことにはならないのか?という疑問もあった。そこでアーカイブのように、インタビューのデータを公の資産として扱っていく方が社会全体の利益になるのではないかという考えに至った。コミュニティのメンバーも、アライも研究者もアクセスでき、データが歴史的な記録になり、特に活動家について記録することは若手の活動家を励みになる。
ところが、日本でアーカイブを実現させようとすると、倫理申請や実施内容、管理主体という大きな問題が立ちはだかっていた。カナダでの実践を踏まえ、参考にしながら日本でのアーカイブスプロジェクトを進めているとのことだった。日本でも是非、様々な分野のオーラル・ヒストリー・アーカイブスが作られ、人々の生き方や知恵が公共の資産となることを願う。

【参加者の感想】
 

  • アーカイブスについてのみならず、日本とカナダとのLGBTqへの捉え方などについても知れてよかったです。

  • とても希望が持てる分科会でした。安心してオーラルヒストリー・アーカイブが公開されるためには、社会が変わらないと難しいということも分かりました。歴史の歩みをなるべく早めたいです。

  • たいへん興味深く拝聴しました。紹介してくださった動画を、絶対に見てみようと思いました。すごく興味があります。知らなかったので、知って得した気分です。日本でも、LGBTQのオーラルヒストリーのプロジェクトが進むとすばらしいな。ありがとうございます。

  • アーカイヴの課題を知ることができ有意義でした。質疑応答の最後の質問にあった、インタビューで第三者が言及されることについて。MSMのHIV予防啓発活動で研究者の方より、「厚労省への報告書に本名で掲載したものの現在は活動を離れている方が就職活動の際、企業側から(ネット検索をしたのか)その報告書に名前を連ねていることについて質問されるケースがあった」と聞きました。日本の社会のありようの問題ではあるのですが、トラブル回避のため過去を公開されたくないというケースもあると思います。★こちらの件については、参考になる情報がこちらの動画でご覧になれます

2022年2月6日(日)
10:30~12:00

いっしょに世界最大を誇るビクトリア大学のトランスジェンダーアーカイブス(資料館)の中の資料を見てみたり、トランス活動家たちのインタビューを聞いたりして、歴史を残していく大切さを味わいましょう。歴史に属する感覚を得ることは、私たちもこの社会に生きているのだと居場所を見つけることでもあるのではないでしょうか。記録し、歴史を作っていくことで、私たちの在り方に誇りを持ち、祝い、レジリエンスを高めませんか。また、調査研究とアクティビズムは社会変革の両輪です。アカデミズムとアクティビズムの連携を強めるためにそれぞれができることを検討する機会にもなって欲しいです。

登壇者

鶴田幸恵.jpg

鶴田幸恵(つるたさちえ)

【プロフィール】
鶴田幸恵(つるたさちえ)。英語では、Sachieのeは発音されないので、satʃi:。博士(社会学)。千葉大学文学部准教授。ジェンダーの社会学、LGBTQ+の社会学、質的調査方法論、医療社会学、調査実習などを教えています。昨年度やった調査実習は、成田空港建設反対運動を契機にはじまった有機農業運動についてでした。フィールドワーカーで、東京のトランスジェンダーコミュニティでフィールドワークしながらインタビューをして、20年ちょっとです。現在は、在外研究で、カナダのビクトリア大学に滞在しています。インタビューをウェブ上で見られるアーカイヴにする、というプロジェクトに取り組んでいます。

著書
鶴田幸恵2009『性同一性障害のエスノグラフィ: 性現象の社会学』ハーベスト社
更に詳しくはこちら
https://www.l.chiba-u.jp/applicants/teachers/sachie_tsuruta.html

オーラル・ヒストリー (oral history:口述歴史) とは、人々の生きてきた人生を直接聞き取り、記録としてまとめたものです。こうした記録をアーカイブスにして一般に公開することは、歴史的に重要であるだけでなく、今を生きている私たち自身にとっても意味があり、次世代への大きな励ましにもなると思います。海外では、様々なジャンルでオーラル・ヒストリーのプロジェクトがあります。例えば、ミネソタ大学のThe Tretter Transgender Oral History Projectは、180人のトランスジェンダー活動家へのインタビューを公開しており、人数にもインタビュー時間にも圧倒されます。LGBTQのオーラルヒストリーアーカイブスは、日本にはまだあまりありません。

長年、インタビュー調査をしてきた鶴田幸恵さんは「Trans+の人びとにインタビューして論文を書くのに、匿名でしかインタビューを紹介できないのだとしたら、それは搾取ではないのか?」「自分が記録した生データは、死んだあとどうなるのか?」といった疑問を持ってきました。トランス当事者の貴重な証言を、自分しか見られないお蔵入りデータにしておくのではなく、公の財産にしたい、という想いから現在、鶴田さんはカナダのビクトリア大学にて「Trans+ Identity Words Project」を実施されており、日本でも「LGBTQ+ Oral History Archive Project」に取り組んでいます。そこでぶつかる大きな壁として、インタビューされる人たちを守るための「倫理申請」があります。この分科会では、鶴田さんにこうした試みについて、日本とカナダの状況を比較しながらお話頂きます。日本でのアーカイブスの実現には、どのようなことが必要なのかも、共に考えていけたらと思います。

【参照ページ(分科会内でも説明します)】
Intro: Chair in Transgender Studies (May 2021)










The Transgender Archives











Discovery Tool - Transgender Archives











The Tretter Transgender Oral History Project


NEW YORK CITY TRANS ORAL HISTORY PROJECT

Trans Activism Oral History Project



聞き手:塩安九十九(トランスジェンダー)
物語が足りていません。
テレビ、映画、漫画、小説、どこを見ても、そこに自分やそれに関連するようなものを見出すのが大変です。見つけたとしても、それはトランスジェンダーへの偏見に満ち溢れていたり、不幸な姿だったり、疎外される対象としてであることがほとんどです。そんな中、フィクションではなく、生身の、本当にトランスジェンダーとして、ノンバイナリーとして、クィアとして生きている人たちの言葉に触れることができることは救いです。ひとりひとりの物語に出会えることのありがたさったら!ネット時代に本当に感謝です。いつかあなたの物語も聞かせてください。あなたが死なずに生きて語ってくれるだけでも、勇気づけられるひとがいるのです。

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