分科会
1/12(日)12:30~14:00【分科会E】
【E-3】セミナー室2
実践共有:LGBTQの高齢者・HIV福祉の現場から。
梅田政宏(株式会社にじいろ家族 代表取締役)
矢矧仁(からぁ訪問看護ステーション 管理者・役員)
分科会報告
この分科会では、株式会社にじいろ家族・にじいろケアプランセンター管理者兼介護支援専門員の梅田政宏さんと、(株)NSオリーブ・からぁ訪問看護ステーション管理者・役員の矢矧仁さんにお越しいただき、高齢者のLGBTQやHIV陽性者で介護・看護が必要な方々へのサービスについてお話を伺った。
最初に梅田さんからの発表があり、ご自身の経歴、ゲイとしてカミングアウトしてケアマネージャーの仕事をすることの意味や実際のところを教えて頂いた。
48歳の誕生日に合わせカミングアウトを決意し、それを機に以前からの夢見ていた事業所の立ち上げで独立を叶えた。常々向き合いたいと思っていた、見えないゲイの生活実態と老後という課題にゲイバーでの繋がりを使って取り組み始めた。ゲイバーやハッテン場は、人間関係が希薄で、その場限りの関係で、継続的な関係が成立しない側面がある一方、オーナーが仕事を紹介したり、同業者を引き合わせるなど、しっかりと人と人とのつながりを作っている所もある。そうしたつながりで、現在共に西成で連携している、ライフデイサービスセンターや、からぁ訪問看護ステーションとの交流がはじまっている。
介護計画を立てる上で、キーパーソンを把握しその人とつながることが必須だ。もしゲイの利用者がパートナーの存在を隠しているとしたら、最も本人に近いパートナーというキーパーソンを知らないまま、その人の生活支援をしなければならない。ケアマネージャーは地域の事業所をつなぐ役目もある。ゲイとして同業者にカミングアウトしておくことで、そうした利用者の情報が集まってきたり、LGBTQのケースについて頼りにされるようになってきたという。最も秘匿性の高い情報を把握する立場であり、利用者の情報を正しく伝達し、共有することはケアマネジャーにかかっている。
実際にカミングアウトして、地元で暮らし働くために、パートナーを配偶者として家族、親戚縁者への紹介・引き合わせたり、近隣の昔なじみの方、地域住民、関係事業所、出会う方への都度のカミングアウトが必要だった。どのカミングアウトも、反応は概ね良好で大きな問題はなかった。さらに地域にコミットするために、釜ヶ崎祭りの実行委員会に入って活動もしている。これは、梅田さんがこよなく愛する釜ヶ崎のハッテン場や、新世界の女装・ゲイバーで出会う夜の人々と、昼間の関係も作って行きたいという意図もある。日雇い労働者の街は、LGBTQホームレスの問題もオーバーラップしている。夜と昼を超越しながら、HIV予防につなげたり、貧困問題に取り組む姿勢だ。
仕事では、事業所開設とともに近隣5区の福祉行政の要である地域包括支援センター及び社会福祉協議会、地域の事業所へのカミングアウトを伴った営業活動を行い、LGBTという属性やHIV感染症の理解を深める勉強会なども開催している。梅田さんも主催者のひとりであり、HIVケアを通じた地域の医療・介護職の連携を目的とした「HIVカフェ」は毎月第三木曜日に行われている勉強会で、興味関心のある方は自由に参加可能だ。
そうした活動をして今年で5年目を迎え、LGBTQやHIVの利用者も増えてきている。同じマンションに何十年も共に暮らしているが、周囲にはカップルであることを隠して暮らしているゲイの方々、生活支援が必要なトランスジェンダーの方など、これまで利用者がカミングアウトすることができず、見えてこなかった問題が可視化されつつある。より良いサービスが提供できるよう、地域のネットワークを強めていきたいとのことだった。
後半は、矢矧さんの職場の様子や現在の訪問看護先の具体的なケースについても少し紹介して頂いた。会社は、3分の2がLGBTQという、非常にクィア度が高い職場。ゲイの看護師ということをオープンにすると言うよりか、自然に自分らしくしているだけで、あえてゲイという必要もないと考えている。ゲイの繋がりから依頼を受ける事もあり、対象者がLGBTQであれば、自分自身のセクシュアリティを明らかにすることで、対象者の警戒心が緩和される印象はある。自分のセクシュアリティを明らかにしたことで、介護を通して介護者の悩みや不満を聞けたこともある。
受けるケースとしては、特有のニーズとしてゲイのHIV対象者が多く、他の疾患を併発している対象者、脳梗塞、白血病末期、発達障害、統合失調症などがあり、HIVが慢性疾患となり、今後は高齢ケースが増えていくと考える。その他では、以前働いていた国立病院機構大阪医療センターの同期MSWからの依頼も増えている。
大事にしていることは、人と人との繋がりの中で、顔のみえる関係。その中で『誠実である』と言う事を常に意識している。協力関係の中で、セクシュアリティが関係する場合と関係しない場合があると思う。センシティブな部分でありながら、地域社会においては意識されることが少ない事やタブー視されることもあると思う。相手が何を求めていかによってセクシュアリティをオープンにするかを判断している。セクシュアリティを意識する対象者も訪問看護ケアを継続して受ける事により、徐々に自身を開放し、看護師個人と自分の関係性「個と個」から、からぁ訪問看護ステーションと自分の「看護チームと個」いう広がりのある視野が生まれ、更なる「個と個」の関係性に深みが増すと考える。
「からぁ(Color)」という、個性や本質を意味する言葉を中核に、人種、年齢、経済状態、性別や性的指向など個人の属性に関わらず一人の人間として尊重しかかわる事に気を付けている。対象者だけでなく、働くすべての職員が『自分らしく生きる』を大切にしている。まず、自分自身が『自分らしく生きる』事で他者への『自分らしく生きる』を支えられると考えているからだ。
質疑応答では、同業者から同じ地域でやっているのに知らなかった、亡くなってからLGBTQだとわかった利用者の方がいた、LGBTQと銘打った際に事業者登録時に問題はなかったか、などなど現場からの具体的な意見感想が出て、現状をお互いにシェアする大変良い機会になった。
参加者の感想
●LGBTQの福祉訪問介護ってあるんですね。素敵ですね。西成、釜ヶ崎は単身男性見えないマイノリティーが多いというのがわかりました。「見えない」という部分で年末のウーマンラッシュアワーの漫才の中で出てきたマイノリティーを思い出しました。夜の社交だけでは社会性が低く、昼もと言うのがよかった!アウティングを伴うアウトリーチではなくと言うところがよかった。
●ゲイバーでのつながり、西成、新世界での祭りといったイベントなど、場に特有の事情が支援に生かされているところが面白かった。他方で、この地域の特殊性というか都市であることなどの要因も大きいとも感じた。
●以前からからぁ訪問看護センターについて気になっていたのは偶然とは言え、お話を聞くことができてうれしいです。ゲイならではの支援や視点もとても興味深かったです。
●面白かった!いろんな意味でカミングアウトが重要になっているところが進んできてるんだなぁと思った。このまま順調にいって、いつかは、セクシャリティ関係なく仕事ができるできるようになれば良い!
●たまたま入った分科会でしたが、自分も事業所を経営しているものなので、知りたかったこと、知らなかったけど知れてよかった情報を教えていただけてありがたかったです。私も私が行っても良い出会いの場所へ行きたいと感じました。どこなのか調べたいと思います。発展場を大切な場所とおっしゃっていたこと、とても共感しました。
●カミングアウトして経営しているとことによって営業していることによって、今までのLGBTの方へのサービス実績が分かるケースがあったと言う梅田さんの話が印象的だった。実態把握が難しいと思うので貴重な取り組みだと感じた。訪問看護の方のお話では基本的なサービス提供者としての誠実さや信頼関係が大事であると言うお話を聞いて、改めて、その基本が大切だと感じた。お二人が自分らしく働かれていること、今までのキャリアの経緯も伺えてよかった。
●困っていることを当たり前に申し出て支援を求められる社会になっていけば良いなと思いました。お二人のお人柄がとても快かったです。
(塩安九十九)
【E-3】セミナー室2
実践共有:LGBTQの高齢者・HIV福祉の現場から。
梅田政宏(株式会社にじいろ家族 代表取締役)、他
LGBTQが高齢になった時、あるいはHIV陽性者に介護が必要になった時、どのようなサービスならば安心して受けられるのでしょうか。医療という限定的な関わりに比べ、介護・介助のサービスは、暮らしの中に深く関わるため、セクシュアリティを隠したままでは、自分らしく暮らすことも困難になるかもしれません。また、利用する地域のヘルパーがLGBTQについて知識がなければ、アウティングも心配です。
ゲイとしてカミングアウトしながらケアマネジャーとして釜ヶ崎という独特の地域で働く梅田さんと、その仕事を連携して行う看護師の矢矧さんにお越し頂き、実践の様子を伺います。
介護職、医療関係者、ソーシャルワーカー、老後が気になるLGBTQ当事者の皆さんに是非ご参加いただきたい分科会です。職場でLGBTQの高齢者・HIV患者を対象にしたサービスを実践している方、情報や経験をシェアしに来てください!