分科会
1/11(土)13:30~15:00【分科会B】
【B-1】大会議室1
日高庸晴
【大会企画】調査から見えるLGBTの教育課題
分科会報告
宝塚大学看護学部の日高庸晴教授に、これまでの調査から伺える現在の教育現場の課題についてお話いただいた。まず、これまでの「性的指向と性自認」に関する国の主な動きが紹介された。2002年に法務省から「人権教育・啓発に関する基本計画」以降、いくつか文科省から通知が出たり、内閣府でも自殺総合対策大綱に盛り込まれるなどの動きがあった。現場にインパクトを与えた2015年の「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」が文科省から出されてから、研修や授業が増えてきたと見られる。こうした国の方針にLGBTQの課題が入ることで、実際に予算が付く事業が実現可能になったり、現場を動かすための根拠として示されるなど、重要な変化が起こってきたのが近年の動きだ。
日高教授は、統計データの紹介と分析のみならず、学校現場で実際に遭遇したケースや教員たちの体験など、具体的なエピソードを豊富に出して現在の状況をお話くださった。例えば、カミングアウトを当事者生徒に促す教員がいること、当事者生徒への配慮と引き換えにカミングアウトを求める教員がいること、LGBTQの問題にもかかわらず、トランスジェンダーの生徒にしか配慮する必要がないと思っている教員が多いこと、いまだに、ホモネタで笑いを取ることで教室を盛り上げられない教員がいることなどだ。こうした事例に加え、実際に不登校になった生徒が、どのようにホモネタで傷つき学校が怖い場所となって行けなくなっていったか、それを放置した教員や学校にどれだけ親が怒りを抱いているかなど、実際のケースに基づいて、LGBTQの生徒児童の学ぶ権利が奪われているかを説明した。
2016年に行った国内最大規模1万5千人の全国調査の結果では、LGBTQ当事者の「ホモ・おかま」といった言葉によるいじめ被害経験割合の高さ(MTF、MTX、FTMでは7割を超え、ゲイでも7割近く)が明らかになり、その結果は2017年に行った三重県立高校1万人の調査でもほぼ同様の傾向が見られた。様々ないじめや嫌がらせに合う割合や自傷経験も有意に高い結果が出ている他、安心できる場所、いざという時に力になってくれる友人や先生も少ない傾向が明らかになった。
子どもの“人生を変える”先生の言葉があります(health-issue.jp/f/)。伝えなければ、伝わらない。心の中で応援していても、言葉にしなければ届かないことがある。応援のメッセージを送ること、困っていることがあればいつでも職員室や保健室に相談に行ったらいいこと、一人で抱え込まずに仲間を作っていくこと。児童生徒への応援のメッセージを発するのか、発しないのか、先生方の決断を彼らは待っている。
という教員へのメッセージで講演は締めくくられた。
定員を大きく超え100名以上の参加があり、満員で入れない参加者が多数発生したほど、関心が高い分科会だった。質疑応答も具体的で切実なもので、教育関係者が多く出席しているようだった。昨今のLGBTQブームにより、性の多様性の授業をする教員が増えたのは良いことだが、教師の理解が不十分で授業内容が酷いこともあるという意見には、やっていくこと、先生にも更に学んで更に実践していってもらうことが必要との日高教授のご意見だった。
1990年代から2000年ごろにあった性教育へのバックラッシュの二の舞にならないように、性の多様性について研修と実践を積み重ねて確固たるものにしてく必要があると強く再確認できたお話だった。関心が高まっている今を最大限利用し、新しい当たり前を定着させていくために、調査データ、当事者の声をしっかり教育現場に届け、教員と連携して性の人権の取り組みを進めていかなければならない。この分科会の参加者は日高教授の熱いメッセージをしっかり受け取ったのではないかと思う。
参加者の感想
●データと聞き、少し固いと思ったが、内容について教員だけではなく、それを志す学生や、親・家庭・地域の人々に知って欲しい内容でした。誰がやるのか、まずは自分から、とも思いますが、個人的には、先生にすべての負担をかけるのは違うと思いますし、自分事として考えられる人を増やしていく活動が必要と思いました。無意識のうちにジェンダーを刷り込まれていると思うので。
● LGBTの授業をやるのに勇気がいる。確かに不規則発言が出てとっさに対応できないと言うクラスがあるかもしれない。しかし、誰にも言えないで辛い思いをしている生徒はいるのだから、授業をしても・しなくてもいるのだから、その辛い思いをしている生徒を救うためには、リスクを恐れずするしかないと思いました。
●貴重なアンケート結果を伺えてよかった。対象が名簿もない中でアンケートを行っていただくことで当事者の声を届けていただくこと、社会的な文脈の中でどう思い生きているのか、と言う姿が浮かびあがってくるのだと感じた。苦しい思いをしている人に対して「時期が早い」はないと言うことを強く感じた。
●調査結果に基づいたわかりやすい内容でとても良かったです。教員の意識がトランスジェンダーに偏りがちと言うのも自分を振り返って「あーそうだな」と反省し、授業を組み立てていく上で欠けている視点に気づけました。
●データをもとにお話しいただいたので、このままではいられないなと言う思いが強くなりました。早速1月14日に管理職を始め教職員へお伝えしたいと思います。
●全くLGBTのことなど理解できない教員が授業をやることについて困っています。それでも実践したほうがいいのか?黙らす方法は研修の積み重ねしかないのでしょうか…
●データって重要ですね。改めて感じました。あと、学校現場の教員対象の研修の生々しい例も非常に印象的(実につまされる感じ)でした。1990年代って現在から考えると性的少数者の環境は劣悪であったと再認識しました。法的整備も大切と思いますが、本来これは「最低限」のことで社会の意識が変わるのが肝要。ただし、「通知」などに一言入るか入らないかが行政の現場では大きいと言うことも確かだと思いますね。
●自分の中学高校時代を振り返ってみたら、中学ではいじめを受けたり、理解してくれなかったりと嫌な生活を過ごしてきた。だから高校では3年間ずっと自分を偽って隠して生活していた。話の内容に共感できると思うところもあったし、他にこんなことがあったんだと知ることができました。これから学校生活が誰にとっても楽しく学べるようになることを願っています。
●数値を明示して本当に苦しんでいても声に出せない人の声をガイドラインや通知・基本計画に盛り込んでいくことが大切であることがよくわかった。
●貴重なデータを示していただき、ありがたいと思いました。地方国立大で教員養成に携わっているのですが、この県ではジェンダー平等や性の多様性に関する教員研修が公的には全く行われていない等しい状況です。市町村(教育委員会)によっても、これらテーマに関対する優先順位が違う(といっても、ほぼ全ての市町村教育委員会において、重要性を感じていないようですが…)実態もあります。そもそも研修すら実施されない点に、いつも深刻さを感じています。
(塩安九十九)
【B-1】大会議室1
日高庸晴
【大会企画】調査から見えるLGBTの教育課題
日高教授が三重県男女共同参画センターと共同で行った2017年の調査は、三重県の高校生1万人を対象にしたセクシュアリティに関するもので、その調査結果が教育現場で注目されています。
1万人の内、LGBTをはじめとするセクシュアルマイノリティの割合は1,003人(10.0%)。当事者の約60%がいじめ被害の経験を持っていたり、自傷行為の経験は、非当事者の12%に比べ、当事者は31%と2倍以上にのぼっており、今だ学校生活の厳しさが浮き彫りになった。また、当事者の5人に1人がLGBTという言葉を知らないなど、教育現場での知識・情報の提供が求められる結果となっています。
また、3年前の当事者15,000人への調査の結果も紹介し、これまで公開されたデータや非公開のデータも交えて、今日の教育現場における課題についてご講演いただきます。
教育関係者の皆さん、性の多様性の授業に取り組みたいけれど学校が動いてくれないという教職員の皆さん、数字に基づいた説得力のある調査結果を持ち帰って役立てていただければと思います。
【講師プロフィール】日高 庸晴
現職:宝塚大学看護学部 教授、日本思春期学会 理事
略歴:京都大学大学院医学研究科で博士号(社会健康医学)取得。カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部エイズ予防研究センター研究員、公益財団法人エイズ予防財団リサーチレジデントなどを経て現職。
法務省企画の人権啓発ビデオの監修や、文部科学省が2016年4月に発表した性的指向と性自認に関する教職員向け資料の作成協力、性的指向や性自認の多様性に関する文部科学省幹部職員研修、法務省国家公務員人権研修、人事院ハラスメント研修などの講師を務める。
【参考資料】ご参加前に是非ご覧ください。