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LGBTQ+と災害支援
2月10日(金)16:30~18:00(~18:40交流会)
全編ライブ
Ellen Pearce-Davies (ロンドン大学修士課程)
北村美和子 (東北大学災害科学国際研究所特任研究員)
災害時にLGBTQ+の人々が直面する困難
日本は国際的に見ても災害が多い国であると言えます。例えば、関東大震災による火災、東日本大地震による津波、広島での洪水による甚大な被害などが例として挙げられます。このように多くの災害を経験している日本は防災研究において多くの知見を有しています。しかしながら日本の災害研究は国際的な災害研究と比較すると、地震に対しての耐震強化、津波に対しては防潮堤の研究など、防災・減災への対応についてハード面に焦点を当てる研究傾向があります。しかし、最近では被害が拡大し長期化している自然災害への対策を行うために、ハード面だけではなく社会的背景の知見を災害研究へ反映することにより減災を具体的に行うことが提唱されています。
これらの背景から、災害の社会的側面に関する研究が増えてきております。特に、社会的な側面から着目した場合、災害時に困難な状態になる貧困、マイノリティの人々、LGBTQ+の人々に関する研究も徐々に増えております。そして、国際的には災害時のLGBTQ +に関しての研究が注目されていますが、日本では未だ防災を多様なジェンダーの視点で行った研究は少ない傾向にあります。
日本では災害時のLGBTQ+の人たちのサポートをテーマに活動している人や組織が存在しており、私たちが行なった調査や公表されているレポートからLGBTQ+の人たちの課題として、例えば災害時に地域の人々から差別されることを恐れて、避難所に行きたがらないことなどが明らかになっています。また、災害時にLGBTQ+の方々が必要とするニーズや支援へアクセスできないことがなどについてわかりました。
今回の私たちの研究では、日本で災害時にLGBTQ+の人々が直面する困難について、日本の中でも災害被害の多い東北、九州の県や自治体に対して災害対策にLGBTQ+の人々への配慮が盛り込まれているかどうかを調査する予定です。さらに東方地方、九州地域のLGBTQ+のコミュニティや支援団体へ継続的に調査を行い、災害時のニーズについてヒアリングを行っていく予定です。
さらにこのプロジェクトでは、災害時に必要な資源をマッピングするアセットマッピングを行う予定です。この地図の活用法として、発災時にLGBTQ+の人々や行政の方々がこの地図にアクセスし、どこに必要な資源があるのかをリアルタイムで確認することができます。例えば、LGBTQ+に配慮した避難所や、医療機関、相談窓口等です。
この分科会では、これまでの研究の成果を発表するとともに、今後の研究計画について説明したいと思います。また、災害時のLGBTQ+の状況を改善するために、国内、国際的なコミュニティとの連携を提唱したいと考えています。
■参考資料
登壇者からみなさまへ
LGBTのサポート団体、岩手レインボー・ネットワークでは、災害時に性的少数者が直面する課題と対応策をまとめた『にじいろ防災ガイド』を作成しています。避難所での困った状況について、「更衣室や入浴施設は、ひとりずつ使える時間帯を作る」「下着、生理用品、ヒゲソリなど、男女別の物資は、個別に届けられるような仕組みを検討する」などの対応策を提案しています。
Ellen Pearce-Davies (エレン ピアス デイビーズ)
ロンドン大学修士課程在学中
ケンブリッジ大学で地理学を学んだ後、ロンドン大学大学院で災害科学の修士号を取得。学部では英国におけるレズビアンの親のネットワークについて研究し、現在は災害時におけるLGBTQ+の人々の経験を専門としている。学部2年の時に北村博士と出会う。日本での就労、留学、ボランティア活動を経て、将来は日本で研究を続けたいと考えている。
北村美和子(東北大学災害科学国際研究所特任研究員)
ロンドン大学大学院修士課程修了。博士課程では東日本大震災における女性をテーマに研究を行う。20年間写真家として活動した後、東日本大震災でのボランティア活動をきっかけに、災害リスク軽減の研究を始める。東北大学とロンドン大学の研究協力関係を構築し、日本の災害における女性やLGBTQ+に関する研究の最前線にいる。
報告文
当分科会では、日本の災害時におけるLGBTQ +の困難とそれに対する支援について、現在行われているロンドン大学と東北大学の共同研究のプレ調査に基づく発表がなされました。
行政の防災担当者とLGBTQ+当事者の被災者への調査から、LGBTQ+の被災者が何に困っているか、行政がLGBTQ+の被災者への支援を行いたいと思っていても、LGBTQ+の被災者の存在自体を把握できず、その困りごとも伝わっていない現状が報告されました。
さらに、今後の取り組みとして、災害時に必要な資源を地図上で示すアセットマッピングの作成などが示されました。
Q&Aでも、参加者の皆様から、本当にたくさんの質問をいただき、時間の許す限り、お二人にお答えいただきました。また、分科会後の交流会でも、登壇者と参加者が交流し、登壇者・参加者の今後の研究・活動への接点ができたと感じています。
【登壇者からのメッセージ】
エレンさんからのメッセージ
災害時におけるLGBTQ+の人々の権利と経験は、常に私の心に近いトピックでしたので、私の研究と経験を共有する機会を与えていただきましたこと大変感謝しています。私が母国語でない日本語で講演することに辛抱強く付き合ってくださった皆さんに感謝しています。講演後のディスカッションでは、多くの方が残って参加してくださり、非常に貴重な意見を聞くことができたのが印象的でした。今回の分科会開催自体が重要であるだけでなく、多様なSOGIEというテーマで自治体や国にアプローチするための良い手段になり得ると信じています。災害への備えは、個人、地域、政府の責任が重なるものですが、このような講演で意識を高めることで、LGBTQ+の人たちが、私たちがすべき災害への備えについてもっと考えるようになればと思います。
最近、トルコで起きた悲惨な地震が多くのメディアで注目されていますが、この地震は、長年紛争の影響を受け、政治的、民族的、宗教的に多様な地域で起こりました。
トルコではLGBTQ+であることを難しくしている複雑な宗教的・政治的要因があります。。日本とトルコのLGBTQ+の人々と組織の比較や協力から、特に災害リスク軽減の分野で学ぶべきことがたくさんあるはずです。
もし、トルコの人々を助けたい、もっと知りたいという方がいらっしゃいましたら、ぜひこれらのチャリティーをご覧になってみてください。
The Mor Çatı Women’s Shelter Foundation
Queer relief fund for the 6 February Earthquake LGBTQIA+ and/or SW survivors
Pembe Hayat LGBTİ+
北村さんからのメッセージ
まだまだ防災計画等においてはLGBTQ+の方々の存在自体がいないように思われておりますので、これからもしっかりと調査を行いたいです。今トルコでは地震があり多くの方々な大変な状況におられます。分科会でご一緒させていただきました皆様と一緒に多くの人々が安心して暮らせる社会になるように頑張っていきたいです。
【参加者の感想】
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とても貴重な研究の発表をしていただき、感謝します。
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行政が被災者にLGBTQ+がいないといった認識に至っているという事実には、怒りを禁じえませんでした。被災者が5人10人なら、いない可能性もあるでしょうが、50人100人になった時点で、被災者にLGBTQ+がいなかったと結論付けてしまっては、行政がその責務を果たせていないと言わざるを得ません。止めて、LGBTQ+の被災者に必要な対策を防災計画に入れていただく事を、切に望みます。
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逆にその状況だからこそ、今回のエレンさんの調査・研究は貴重で、意義が大きいと思います。
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行政の防災担当者が、今回の調査・研究の意味するところをしっかり受け止めて、LGBTQ+の被災者に必要な対策を防災計画に入れていただく事を、切に望みます。