Since 2013
労働の多様性
LGBT が働くときに知っておきたい“働く” のエッセンス
2月5日(日)10:30~12:00(~12:40交流会)
録画上映+ライブQA
宇野さつき
今将人
多様な働き方とセクシュアリティ
「男たるもの、妻子を養って一人前」「料理が得意なんて、いいお母さんになるね」こんな言葉を聞いたことはありませんか? 言われたことはありますか? 私たちが働く理由は何でしょう? どんな職業が自分に適していると思いますか? その理由は何でしょうか?
“働く”ことは私たちのジェンダーやセクシュアリティと密接に関わっています。私たちが“働く”とき、自分の性別役割イメージや、ジェンダー間の経済格差などを知ることで、より豊かに“働く”ことができる手掛かりになる分科会です。
“働く”のエッセンスを、自分が求める“働く”を、一緒に考えてみませんか?
キーワード:賃金労働、家事労働、感情労働、アンペイドワーク、再生産、働き方、経済格差、賃金格差、労働観、ジェンダーギャップ、性別役割、ジェンダーロール、ジェンダーイメージ、非正規雇用、フリーランス
宇野さつき
仕事・労働文化人類社会学(野良)研究者/フィールドワーカー。
東京大学学際情報学府アジア情報社会コース修了。
ロンドン大学クイーンメアリー校都市地理学修了。
上智大学国際教養学部国際教養学科の研究室による東日本大震災後の被災地での傾聴ボランティアとフィールドワークの「Voices from Tohoku(東北からの声)」を経て、「Activist Mothers and Radical Women (活動する福島の母と女性たち)」、「SEALDs (Students Emergency Action for Liberal Democracy): Research Note on Contemporary Youth Politics in Japan (現代の学生の政治運動についてのSEALDsからの研究報告)」にて、東京で社会活動をするアクティビストたちの取材とフィールドワークについて共同執筆。
専門は日本の仕事や職場の文化人類社会学とフィールドワーク。
2020年、コロナによる緊急事態宣言期間がフリーランスワーカーたちへの影響を追った「Japanese Freelance Workers Struggle during the COVID-19 Pandemic: Social Media, Critique, and Political Resistance (コロナによる日本のフリーランス労働者たちへの影響とSNS運動)」を共同執筆。現在は音楽関係の仕事に従事している。
今将人(いままさと)
金融系企業で働く会社員。大学で臨床心理学、大学院でトランスジェンダー研究に従事。大学院在学時にうつ病を発症し、大学院修了時は「精神疾患のある職歴のない30代無職」。その後、塾講師、交通警備員、工場作業員など非正規雇用を経て、障害者手帳を取得し、現在は障害者雇用枠で金融系企業に在籍。社内外でのLGBT研修講師、男性育休に関する情報発信、障害者職業生活相談員としての相談業務など、ダイバーシティ&インクルージョン施策を担当している。
こんな方におすすめ!
就きたい仕事がある方、ない方、悩んでいる方、仕事を辞めたい方、辞めたくない方、悩んでいる方、働く上で困っている方、困っていない方、働くのに疲れた方、バリバリ働いている方、ジェンダーと仕事の関係を知りたい方、ジェンダー間の経済格差に興味のある方、労働観を考え直したい方、など。
(実行委員:今)
報告文
本分科会では、仕事・労働文化人類社会学研究者/フィールドワーカーである宇野さつき氏と、大会実行委員の今将人が、”働く”をめぐるジェンダー、セクシュアリティの関連、その中でLGBTの職業選択やモチベーションの在り方、無償労働などを再考することを目標とした。
まず令和3年度国民生活に関する世論調査から、働く目的として給料・やりがいが挙げられていることを紹介し、次に神戸大学大学院 石井香里の「レズビアン女性の労働意欲に関する研究」からセクシュアリティと労働意欲の関係を説明した。
男性の経済力に頼るライフプランを持たないことでレズビアン女性の労働意欲が上がるという分析から、異性愛主義による労働力の損失、男女カップル以外のライフスタイルを採る人への抑圧、労働力として過剰に期待される男性の生き方の見直しとしてのメンズリブなどに言及し、”働く”とジェンダーの関係を説明した。また仕事と承認欲求の関連について、文化人類学者ゴードン・マシューズによる論文で”Ikigai”という哲学に言及されていることも紹介した。
次に、前段と同じく令和3年度国民生活に関する世論調査から、職業選択の理由に収入の安定・ワークライフバランスが注目されていることを紹介し、その上であるトランスジェンダー男性が宅配ドライバーとして就職した事例を取り上げた。この事例について宇野氏から「制服による所属意識、生活に必要な仕事としての社会貢献、男性としての自己実現の達成」というポジティブな側面を分析すると共に、職業における性別役割意識ー「医師」と「女医」などーも取り上げた。
続いて、トランスジェンダー男性が自身の親の経済関係を倣ったために、パートナーとの間で起こったトラブルについて紹介し、宇野氏から「パートナーシップにおけるロールモデル」「パワーバランスへの同意」と「同意のないまま男性性を発揮することの加害性」にも言及した。その上で専業主夫が主人公のドラマ作品、漫画作品を紹介し、男性が「働かない/働けない」ことへのポジティブな表現を評価する社会の変化にも触れた。
3つめに、戦後からの働き方の変化ー自営業から終身雇用への転換、転職回数の変化などーに触れ、LGBTが働きやすい形態と言われるフリーランスの定義、形態、メリット、困難を説明した。
最後に今将人より、無償労働、無賃金労働、アンペイドワークとして家事労働を紹介し、社会とって必要であるにもかかわらず、「本能」や「愛情」のもとで女性に無償で期待されるなど、ジェンダーとの関連について分析した。また宇野氏からは、無形労働として感情労働の定義を説明し、その上で感情労働が数値化されやすい仕事とされにくい仕事、感情労働もジェンダーによって評価が異なることなどを説明した。
まとめとして、登壇者が求める”働く”を紹介した。今からは「経済力は権力」という信念と、労働にかかわるジェンダーイメージから「自分らしく働く」ことの限界を認識し、加害性を持たない働き方を模索したい旨をお話した。宇野氏からは「生き抜くための”働く”」と、そのために社会や企業が整備すべき保障、個人がすべき努力についてお話した。
結果、賃金労働に留まらない多様な”働く”とジェンダー、セクシュアリティの関係を明らかにし、自身の”働く”を再考する一助になったと考える。
【参加者の感想】
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介護という業界に従事しているので、女性の労働に対する賃金の妥当性や、感情労働など、大変興味深い学びの時間になりました。また、質疑応答も興味深いものが多く、時間が少なかったのが残念でした。
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労働、ハタラクことには、ジェンダーが大きく関わっているなとあらためて思いました。正規/非正規のジェンダーバランスのいびつさもそれと関連してあるし、これを変えていけるんかなと思うことが多いですが、なるべく「えー?」っと言うて、「なんで?」と言うて、職場にさざ波を立てていきたいなと思いました。