報告文
この分科会では宝塚大学看護学部の日高庸晴教授に、2019年に行われたLGBTsを対象とした調査「REACH Online 2019(国内在住者 有効回収数10,769件)」から見える様々なセクシュアリティの人達の実態についてご講演いただいた。同性婚や同性パートナーシップ制度に対する思い、学齢期の出来事(学校教育、いじめ被害、不登校経験など)、親や職場、学校へのカミングアウト率、職場や学校の環境、セクシュアリティを自認した年齢、日常生活における困りごと等、アンケート調査の内容は多岐にわたり,教育関係者のみならず福祉、医療に携わる者に多くの気づきを与えるものであった。
社会の変化を感じている当事者が回答者全体に占める割合やゲイ・バイセクシュアル男性の親へのカミングアウト率の経年変化等のデータから、確実に社会が変わってきていることがうかがえる。しかしその一方で、職場や学校で差別的な発言を見聞きした当事者の割合や、いじめ被害や不登校を経験した当事者の割合は依然として高い状況が続いており、各機関や個人の取り組みを継続していく必要性を感じるものであった。
また、日高教授はアンケート調査から数字を出す意義について次のように述べられた。
『数字になっていくということは、世の中に訴えをしていくとき役に立つ。特に政治が変わらないと制度が変わらない。例えば文部科学省から各学校に通知が出て、それを受けて現場が動くことができる。他にも労働・医療なら厚生労働省、人権関係なら法務省の人権擁護局のように関係機関に働きかけていくことがこれからも必要で、訴えていく際にこれらの数字が役に立っていってほしいと思う。』
分科会には100名近くが参加しており、質疑の時間では医療、福祉、教育など多方面から多数の質問が寄せられた。誰かに相談したいと答える若い世代が多いことは情報化社会を生きるが故のことなのではないか、カミングアウトをしていない人の方が同性婚を求めていない傾向にあることをどう解釈するかなど、セクシュアリティや年齢別、カミングアウトをしているか・していないかなど、様々な属性別にまとめられた調査結果があるからこそ見えてくるものについて話題に上がった。また、自治体職員や教職員が日々苦悩している実態についての質疑も取り上げられた。
参加者の感想
●データから見られるLGBTの差、蓄積されたデータの重要性を身にしみて感じました。
●貴重な報告をありがとうございました。肌感覚で感じていたことが、数値化されたことで、社会に伝えやすくなったことをありがたく思います。特に、学校での対応についてヒントをいただけたことはありがたかったです。
●現状について、とても多くの学びがありました。質疑応答で、「1万人規模の調査結果(しかも再現性のあるもの)を繰り返し繰り返し示しているにも関わらず理解を得るのが難しい」というお話をされていたのが印象的でした。市民の声を大きくすることを支援できるように、日々進んでいきたいと思います。
●教員をしており、性的マイノリティの生徒への対応、日々の生徒たちへ接するときにどうしていけばよいのか、他の先生方へ理解していただくためにどうしていけばいいか、と悩む日々です。新しいデータ、またその伝え方などをお話ししていただき、今後の参考になりました。
●私はカウンセラーとして相談業務(電話中心)をしておりますので、22~24の調査結果についての質問はご回答いただきたかったです。特に「なぜ、相談したいと思わないのか、あるいはできないのか」ということについては知りたいところでした。ただ、全体的には大変参考になりました。
●2年前に聴講した時よりデータも新しいものになっていて勉強になりました。MTFの生徒さんがスカートを履きたくて学校と交渉中なのですが、フォローしていったらいいか悩んでいます。また、そこの学校は女子生徒用のスラックスはあるのですがネクタイではなく身体的性が女性であればリボン着用となっていました。それに関しては当事者の生徒さんが学校に交渉してすぐにネクタイに変更になりました。我が子は性自認も身体的性も女性ですがスカートが嫌いです。再来年の中学校入学を控え、今から「体操服で登校するわ」と言い切っています。制服問題は良し悪しと感じました。(制服がイヤで私は私服の高校へ進学し、そのおかげかかなり開放的になりました)MTF当事者の方の無職率に興味があります。受診患者さんの傾向なのですが、FTMの方に比べてMTFの方の生活保護率が高いと感じています。
●貴重なデータを分析されているなと思いました。アンケートの内容も細かく、興味深かったです。他の人はどうなんだろう、というのも知れて良かったです。私は最近、変な校則が多いことが気になっていたので、制服についての事例など聞けたのが良かったです。社会人になると、中高の制服があそこまで厳しかったのはなんなんだろうと思います。教育現場で、先生が凝り固まってると相談もしにくいし、後々の生きづらさに直結すると思うので、今後も意識調査など続けて、可視化していくことは重要だと感じました。
●私は大学生で性的マイノリティについてまだまだ知識不足なことが多いです。今回このような機会があり、新たに知ることができ、とても良かったです。
【登壇者】日高 庸晴(宝塚大学看護学部 教授)
【開催形式】LIVE配信+Q&A
宝塚大学看護学部日高庸晴教授に、2019年に行われた調査についての最新の結果を合わせてご報告して頂きます。
ライフネット生命保険株式会社からの委託調査として、2019年9月2日~12月1日の期間、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー等のセクシュアルマイノリティ当事者約 1 万名を対象に実施した「LGBT 当事者の意識調査」を行ったものです。
結果は、当事者の7割が、5年前に比べて、性的思考や性自認の多様性が尊重される世の中になってきていると感じており、8割がオリンピックなどを契機にLGBTへの制度整備を期待すると回答している一方で、学校での「いじめ問題」と「職場環境」に大きな改善は見られませんでした。地方自治体でパートナー登録制度が広がる中、若い層を中心に同性婚(異性婚と同じ法律婚)を望む当事者の割合は6割に上っています。また、今回初めて調査した「周囲との違いに気づいた年齢」については、セクシュアリティ毎に差があることがわかりました。MTF・FTMは10~11歳、レズビアン・ゲイは13~14歳、バイセクシュアル男性・女性は 15~16 歳となっています。これは、学童期における性教育の重要性を改めて後押しする結果であると言えるでしょう。
最新の調査結果から、現代のLGBTQを取り巻く状況や課題をご報告いただくことで、医療・福祉・教育の現場で取り組みをさらに推し進めていく契機になることを祈っています。
参考資料
■ライフネット生命保険株式会社
第 2 回 LGBT 当事者の意識調査~世の中の変化と、当事者の生きづらさ~(2019年)
■【宝塚大学メディア掲載情報】
日高庸晴教授の調査結果が朝日新聞に掲載されました。
■映像教材のお知らせ
日高 庸晴
現職:宝塚大学看護学部 教授、日本思春期学会 理事
略歴:京都大学大学院医学研究科で博士号(社会健康医学)取得。カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部エイズ予防研究センター研究員、公益財団法人エイズ予防財団リサーチレジデントなどを経て現職。
法務省企画の人権啓発ビデオの監修や、文部科学省が2016年4月に発表した性的指向と性自認に関する教職員向け資料の作成協力、性的指向や性自認の多様性に関する文部科学省幹部職員研修、法務省国家公務員人権研修、人事院ハラスメント研修などの講師を務める。
https://www.health-issue.jp/