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報告文

この分科会には、約80名以上の参加があった。

金泰泳さんのお話では、ご自身とセクシュアルマイノリティとのいくつかの出会いをご紹介くださり、そこから大きな影響を受けたこと、また現在の学生との関りにもそれが影響していることなど語ってくださった部分が印象的だった。そして統計データを使って在日コリアンの自殺率の変遷などから、在日コリアンの置かれている状況や文化的背景なども考察し、今後の在日コリアンや外国ルーツを持つ人たちのメンタルヘルスやサポートについても大きな示唆となるご発表だった。

廣瀬研一さんのお話は、幼少期からのミックスルーツ、トランスジェンダーとしてのアイデンティティの変遷を丁寧に説明してくださり、ダブルであることの困難さ、セクシャルマイノリティであることの生き辛さがどのように廣瀬さんの人生に影響を及ぼしてきたかを語って下さった。ひとつひとつの言葉を紡ぐような語りに参加者は引き込まれ、最後には廣瀬さんからの暖かいメッセージに心を動かされた人も多いのではないだろうか。

まだまだ語られていない複合的アイデンティティについて、もっと耳を傾けていく必要性を強く感じる分科会となったと思う。

​​アンケートより抜粋

  • お二人の話はとても胸にささるものでした。LGBTの学びを通してたくさんのマイノリティに目が向くようになりました。自分自身は差別などをしないと思っていますが、無知ゆえに、また今までの刷り込みから自然に出てくる感情があります。それを修正するのですが…自分のできることを今後もやっていきたいです。つらい体験をされているお二人は、人格的にとても魅力的だと感じます。ありがとうございました。

  • 発表者の方一人あたりの持ち時間が長くて、聴き応えがあった。ライフヒストリーをじっくり聴くことができて、よかった。質疑応答のパートも、アンケートがあったりして面白く聴くことができた。

  • 本当に貴重なお話をありがとうございました。涙なしにはうかがえないお話しでした。金さんのお話しは、ご自身の思いや経験に裏付けられつつ、たしかなデータによるもので、説得力がありました。廣瀬さんのお話しは、静かにかみ砕くような語りで、心に響くものがありました。とても慎重に時間をかけて、これまでの経験を振り返りながら準備をされたのだろうと思います。お二人ともありがとうございました。

  • 報告者の方の複雑な背景や在日コリアンの方に参政権がないことなど、知らなかったことを知ることがてきました。医療従事者なので、病院にいらっしゃる方の多様性、背景を考える上で大切なことだったと思います。

  • 金泰泳先生からの在日コミュニティを客観的に見た発表と、広瀬さん個人としての体験からの発表とのバランスがとても良かった。また、金泰泳先生と広瀬さんの両者がコミュニティの枠にとらわれず多様性や個人の生きることの尊重をうたっていたことが、コミュニティの存在意義を問い続ける起点となるということにも気づけてよかった。

  • お発表者お二人ともご自身の体験をていねいに思い出され、事実にもとづいてわかりやすくお話くださいました。金さんの「他のマイノリティのもつ視野、社会構造を変えていく」というアドバイスがとても心に残りました。

分科会後、演者から参加者へのメッセージも頂いたので下記に掲載する。

企画者:塩安九十九

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分科会にご参加いただいた皆様

 ご感想をいただき、誠にありがとうございました。どのご意見もたいへん励みになるもので心より感謝申し上げます。当日、話にふくめることができなかったこと、そしてその後の交流会で少しお話ししたことを紹介させていただければと思います。
 私は発表の最後の方に、「セクシュアルマイノリティの運動に学ばせていただきながら」ということを申しました。これは、私自身がこれまで在日コリアンのコミュニティから排除をされてきた経験もあり、セクシュアルマイノリティの方々の存在や運動に勇気づけられてきたということがあったからです。
それともう一つ現実的な問題もあります。私は、あの在日韓国朝鮮籍者における自殺率の高さには、背景として「展望のなさ」ということがあると思っています。
 1990年前後、指紋押捺拒否という運動がありました。あのころ在日コリアンは今よりもっと元気だったと思います。社会の制度を変えていける、そうした展望を持つことができていたからだと思います。しかしその後、在日コリアンの権利獲得運動はどうかといえば、いわば“頭打ち”状態で、あの押捺拒否運動以降、何ら状況は変わっていないのが現状です。在日コリアンの自殺率の高さの背景には、こうした構造的な問題もあると考えています。
 そこでこの状況を打開する方法の一つとして考えられるのが、「外国籍住民の地方参政権」の問題であります。在日外国人は税金等の「義務」はすべてはたしていますが、多くの「権利」を与えられていません。選挙権・被選挙権の参政権もその一つです。在日外国人を「してもらう立場」から、「自分たちのことは自分たちで決められる存在」へ。そうした社会的位置の転換が必要だと思います。
 この「外国籍住民の地方参政権」は、日本の憲法に「参政権は日本国民固有の権利」と謳われているため実現しないままでした。そこで、「ある特定の自治体で条例として、その自治体在住の外国籍住民に参政権を与える」という方法は考えられないかとおもっております。そしてそのときに参考になるのが、「パートナーシップ制度」です。「パートナーシップ制度」条例も究極的には、憲法を変えて「同性婚」を合法化するということが目標だと思いますが(結婚制度に対する論もあると思いますが)、「同性婚」に準ずる制度としての「パートナーシップ」、これが外国籍住民の地方参政権にも適用できないかと考えるのです。このように、「セクシュアルマイノリティの方々の運動に学ばせていただきながら」と申しましたのはそうした現実的な問題もあったからでもあります。
 そういう意味で、今後もぜひおたがいに刺激をうけながら、より良い社会をつくっていけたらと考えるしだいです。今後とも、何卒よろしくお願い申し上げます。

金泰泳

追伸:署名運動をはじめました!是非ご賛同ください!

永住資格を持つ外国籍住民に地方参政権を!

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分科会への参加、ご視聴いただいた親愛なるみなさまへ

 

 この度は講演をお聞きくださり誠にありがとうございました。心より感謝を申し上げます。今回私はLGBTQという言葉や専門用語さえまだよくわからない、ジェンダーのことでひとり悩んでいるかもしれない情報量の少ない10代の子たちが来ているかもしれないと思い意識しながら、出来るだけ多くのことをお伝えしたく様々なテーマでお話をさせていただきました。

 

 キリスト教団コミュニティの中でのLGBTQと障害者への差別はどうなっているのでしょうかというご質問がございました。私が所属するカトリックではバチカンの教皇が多様性を認めて差別しないようにと指導していますが、日本の教会の実際では信徒同士の小さな集まりなどではそうした話題はほぼ出ないというのが私の率直な感想です。触れたがらないが正しいかと思います。過去にLGBTQに理解を示す信徒たちがセミナーを開催したところ、保守的な信徒グループから執拗な妨害を受けたという事例を聞いたことがあります。理解しようと勉強するグループは少数ながら存在はしています。プロテスタント教会については知識不足ですので私からはうまくお答えすることができません。ちなみに私には、個人的に理解を示してくれているカトリック信徒・プロテスタント信徒の友人が2名います。

 

 私は今まで深くLGBTQの問題を考えたことがなく活動をしてこなかった人間なのですが、皆さんの感想、活動されている方々の姿を知ることができ、では、私に何ができるのだろうかと考えるきっかけを与えてくれました。テレビニュースやネットのコメント欄を見て精神疾患が悪化する私の場合は極力見ないようにと過去に医師から指示を受けたことがあり、これを守り続けて数年経っておりますが、そのようなこともありLGBTQの問題を含めて今後書籍などで勉強をしたり、何より人と会い話すべきだと思いました。人との関わりは大切です。今の時代SNSだけで何かを完結させたりすべてを理解したと思ってはいけません。人と会って話すことは重要です。当事者でたったひとり悩んでいらっしゃる方がいるはずです。そんなあなたにお伝えしたいことは、この世の中、悪いことばかりではないです。だからどうぞ人と会ってみてください。一歩出てみるのです。最初はそこから。怖がらないで、大丈夫。

 固定観念に縛られない、誰かからの刷り込みに気を付ける、日本人と海外の出自を持つ人との自然なかかわり方を探る、人に寛大だと思う自分の心の中に人を隔てる垣根が潜んでいないか。私たちの課題は無数にあります。マイノリティの中に別のマイノリティがいて、さらにその向こうにたったひとり悩み苦しむマイノリティがいるかもしれません。耳を傾けましょう。共生のために。

 

廣瀬研一

【登壇者】
金泰泳 (東洋大学 社会学部 教授)
廣瀬研一
​司会:塩安九十九

【開催形式】録画配信+LIVEでQ&A

 「マイノリティにとって社会とはストレスフルな社会である。マイノリティは、民族、人種、性別、出身地、またセクシュアリティ、障がいなど、さまざまな属性に基いて社会的蔑視や差別をうける、排除・疎外されるという経験を日夜している。それは、『マイノリティだから』という本質主義的なものではなく、そうした処遇をうければ、誰であってもそうなる可能性をもつ社会構築的なものである。」

 

 これは今回登壇いただく金 泰泳さんの著書「在日コリアンと精神障害―ライフヒストリーと社会環境的要因」のはじめの部分からの引用です。在日コリアンという社会的マイノリティが長く日本社会で疎外されてきたことは、いま現在も続く在日コリアンの自殺率の高さにも表れていると言えます。この10年で何人もの在日コリアンの知り合いが自死をしたという方がいると聞いた時、LGBTQの自死した仲間たちのことが浮かびました。
 そして、日本社会の中の在日コリアンという少数性だけでなく、男女規範の強い在日コリアンのコミュニティ内でセクシュアルマイノリティという少数性を持つ人々は、どのような経験をしているのでしょうか。当事者である廣瀬研一さんからお話を伺います。

 

 LGBTという言葉が普及し、ダイバーシティが叫ばれる中、LGBTQコミュニティ内のダイバーシティはどうでしょうか。今一度、私たち自身が、セクシュアリティだけでなく、人種、国籍、障害、出自、宗教、年齢などなどに対して開かれたコミュニティであるためにはどうしたら良いか考えるきっかけになることを願います。また、心理職やソーシャルワークの専門家など支援者の皆さんには、こうした複合的アイデンティティを想定したサポートやセーフティーネット作りを心掛けるよう取り組みをはじめてほしいと思います。

メッセージ

 特にメンタルヘルス、ソーシャルワーク分野の専門家の皆さん、LGBTQのコミュニティオーガナイザーの皆さんには、是非参加して頂きたい分科会です。異性愛が当たり前とされる社会でLGBTQが日々のストレスを抱えているように、日本人であることが当たり前とされる社会では、在日外国人の人々の疎外感は多大なものです。情報化社会にもかかわらず、在日コリアンの若者がネットで情報を得ようとしても、ヘイトスピーチまず遭遇します。それが抑うつや精神的負担になることは想像に難くありません。セクシュアリティのみならず、そうしたインターセクショナリティに理解のある心理、精神、ソーシャルワークの専門家が増えることを願います。

参考

■【著作紹介】「在日コリアンと精神障害 -ライフヒストリーと社会環境的要因

■「在日コリアンいのちのメール

今回の分科会の講師であり、産業カウンセラーでもある金 泰泳さんが行っているメール相談支援。

在日コリアンカウンセリング&コミュニティセンター(ZAC ザック)

※講師と直接関係のある団体ではありませんが在日コリアン向けカウンセリングをお探しの方は参考にして下さい。

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金 泰泳

1963年生まれ 日本籍の在日コリアン2.5世(2009年に韓国籍から日本国籍に)。18歳の9月まで在日コリアンであることを隠して生活。それまで「井沢泰樹」の名前を使っていました。日本国籍取得後、「金泰泳」名と「井沢泰樹」名を両方とも使っています。「ダブルスタンダードだ」との批判もあり。「積極的ダブルスタンダード」「戦略的ダブルスタンダード」もありと考えています。神奈川県在住。

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廣瀬研一

1962年生まれ 日韓のハーフ(事実婚により出生時から日本国籍、日本人母の戸籍への入籍による)・精神障害(初期に鬱病、のちに躁うつ病と診断が変わり10年のデイケア通院を経験、医療への不信により手帳・自立支援証を更新せず現在は通院していない)・4-5歳くらいからの性別違和(性自認女性・性指向女性)の3つを併せ持って生きています。東京都内在住。

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