報告文
当日お答えできなかった質問への回答
質問
日本では、在日コリアンのコミュニティでセクシュアルマイノリティが自分のセクシュアリティを話せないという話を聞いたことがあります。日本では、確かにどこでもカミングアウトしにくい社会ですが、小さなコミュニティの方がカミングアウトが難しいのは確かだと思います。また、ロサンゼルスの在米コリアンコミュニティに属するレズビアンがカミングアウトできないという話を聞いたこともあります。ノアさんは、いま、アメリカにいて東アジア系のコミュニティにそのような傾向を感じることはありますでしょうか?
回答
まさに、これがインターセクショナリティの現実なんだと思います。アメリカでも、南アジア地区出身や南アジア移民のセクシュアルマイノリティーはイスラム教文化のため、特に同じコミュニティーでも抑圧と差別を感じる(ひどい場合は、同じ国出身の人達から殺される、もしくは自殺する)ことがアメリカでも大変多くいます。同様に、アラブ地域からの移民やコミュニティーも同じことが言えます。また、東アジアの家族でも、移民であるか、それとも、コミュニティーが東アジア系に属するかで家族観の捉え方は違いますが、同じアメリカに住んでいても、オープンではなく、言わず聞かずの文化のような話はよく聞きます。一方でフィリピン、マレーシア、タイなどの国はアメリカでもオープンです。やはり、どの国出身であるかというより、それぞれの人の在米での暮らしのレベル(移民、一世、宗教)の複雑な交差するアイディンティティ―の中で、その人、その人が感じる抑圧はかなり変わってくるため、一概にこうだとは言えないと思います。
質問
貴重なお話ありがとうございました。お話の後半の方に出てきた「ケミカルフリー」ということについて、教えてください。シカゴではイベントをケミカルフリーにするためにどんな工夫がされているのでしょうか?
回答
アメリカでは、化学物質過敏症の人も障害者に含まれます。そのため、基本的にどの障害者団体も、身体障害者の人のために、エレベーターやスロープをつけることや、聴覚や視覚障害者のための情報保障のような考え方で、空間を化学物質フリーを推し進めています。建物の入り口には、香水禁止やディオトラントフリー、化粧もなるべく化学物質の低いものに、などの看板が掲げられています。また、トイレも匂いを取る化学物質を一切なくし、代わりに、自然な脱臭効果のあるものに切り替えたり、石鹸も100%オーガニックで化学物質が含まれていないものが用意されています。もし、お客様で香水などをつけてきた場合は、入口で服の着替えをお願いするところも用意してあります。
質問
プライドパレード会場が、バリアフリーなのか・ケミカルフリーなのか、というお話がありましたが、障害とケミカルフリーか否かが関わる事例について教えてください。
回答
プライドパレード会場をバリアフリーにするうえで、上記のように、化学物質過敏症は障害の一部に含まれるので、会場をバリアフリーにする=ケミカルフリーにすることも必然的になってきます。特に、セクシュアルマイノリティーの団体はドラッグクィーンなど化粧や髪の毛のスタイル剤を大変よく使用するので、障害者団体とセクシュアルマイノリティーの団体でコラボして、アライと言われる、石鹸の会社やスタイル剤の会社にお願いして、新商品をケミカルフリーフレンドリーにしてもらって、それを元に、ドラッグクィーンが一般の人にショーのたびに、その会社の製品を使っていること、なぜ使っているのかなど、トークで一般社会に科学物質過敏症のバリアを取り除く運動に関わったり、会社自体も、会社のPRや製品の売り上げUPになるため、みんながWIN、WINの関係の絡みが行なわれたりしていました。
質問
しょうがいを持つ人として特別扱いされたご経験はございますか?質問の意味が伝わりづらくてすみません!LGBTQの方々が聞かれたくないことなどと同様に、相手は「よかれ」と思ってした言動が、しょうがいのある当事者にとっては「不必要な特別扱い」と受け取られてしまうようなものはありますか?
回答
この質問に関しては、その人、その人に聞かないと、人によって答えが変わってくると思います。私の場合、一番は「どこが悪いの?」という何気ない質問ですかね~。この質問、日本でよく聞かれますが、アメリカでは絶対に聞きません。というのも「障害=悪い」という前提の大変失礼な質問だからです。
質問
私自身、しょうがいを持つ人々にサポートはしたいけれど、当事者の方が不快になる場面、するべきではない言動などを知りたいです。
回答
既に、上の質問の所に回答させていただきましたが、障害者はこう扱うべきなど、決まりはありません。その人、その人によって不快になる言動は違います。なので、一番良いのは、サポートする際は、まず、その人がサポートしてほしいと思っているかどうか聞くこと、そして、サポートする際は、その人に「不快になるようなことをしたら、遠慮せずに言ってくださいね」と言ってからサポートするのが無難かと思います
質問
日本で障害関連では社会モデルを提示して理解されることも以前より多くなって来たかとは思いますが、LGBT運動はGID名称への固執を始め、依然として「普通」志向が強い、あるいはメインストリームであると感じています。一般受けする方から優先順位を付けて解決して行く、とも言われたこともあります。どのように全体的な取り組みを底上げして行くことができるか、ご助言いただけますか?
回答
個人的には、一般受けしているのはLGBT運動でも有名人だけなように思います。普通に暮らしているセクシュアルマイノリティーの学生が使いたいトイレを使っているか?というとそうでもないし、同性婚ができるかというとそうでもない…。まだまだ一般社会の中で、制限のある生活だと感じます。障害者団体も、障害種別を越えた運動がそこまでできているかというとそうでもない。だからこそ、一度、箱の外から物事を考える必要があるような気がします。今までの障害者運動やLGBTQs運動になかったナナメの運動を行なうにはどうしたらいいのか?一体、なにが欠けているのか?などマイノリティーが集まってマジョリティーになるための運動が必要なように感じます。そうすることで、まず、「普通」そのものが変わるような気がします。
質問
ありがとうございました。日本の施設や病院では、いまだに女性の入所者が男性職員から排泄・入浴などの介護を受けている現状があり、変えていかなきゃ!と思っています。そういうアクションがあります。でも同時に、「同性介護の徹底を」というのは、当事者、介助者のセクシュアリティを何も考えていないことになってしまうのもわかっています。ただ、病院や施設の壁の厚さ、対話の難しさを思うと、性の多様性を踏まえて改善を求める、というのが難しすぎて、何から手をつけていいか?と呆然としてしまうところがあります。…うまく質問になりませんが、ノアさんの考えを聞かせてください。
回答
多分、そもそもの段階で、施設や病院の入居者や入院患者は「性的欲求がない」という低レベルな考えがほとんどの管理職の人達にあるような気がします(社会自体そういう考え方なので)なので、まずは、障害者や高齢者、病気の人、みんな(アセクシャルは違いますが)性的欲求や性的志向などがあるということをしっかりと伝えていくことが大事な一歩目になるよう感じます。そこから、じゃぁ、どうやったら、クオリティーの高い、サポートをしていけるのか?個別性のあるサポートをどうやったら実現できるのかという会話になっていけるような気がします
質問
人権教育を中心に学校教育で子どもの声を聴くNPO法人で20年来活動をしています。インターセクショナリティと特権について、ノアさんの視点で少しお話をお聞きしたいです。特権に気づいていない多くの人がいる中でできることを考えています。
回答
そうですね。特に日本のような右習え空間の場合、特権に対しての教育や考えをそこまですることなく、大人になってしまっている人達が殆どのように感じます。でも、特権がある人が、その特権を、より抑圧する方向に使うのではなく、その特権を使って、マイノリティーの声を拾いあげ、発信していくことが大変重要だと感じています。そのためにも、小学校など幼い段階で、特権や抑圧に関するオープンに話し合う場や場面を作っていくことが重要だと私自身、感じています。
質問
福祉系の大学の教員です。インターセクショナリティのことをこれほど分かりやすく説明を聞いたのは初めてです、ありがとうございました。日本の障害者のコミュニティにLGBTQIAの居場所がないことを知り、まずは学生に伝えることから始めます。アメリカの障害者におけるLGBTQの理解が進むのは、シカゴだからこそ、ということもあるでしょうか? また日本はトランスジェンダーというより、GID(性同一性障害)という医療モデルが強いために、社会モデルの話が伝わりにくいと思いますが、アメリカでは大橋さんが言われていた社会モデルの視点が一般に理解されているのでしょうか?
回答
そうですね。日本の場合、機能障害のレベルに合わせて、障害者手帳と障害何級というのがあり、その手帳に合わせて、重度訪問介護保障を使える状況です。一方、アメリカでは、障害者手帳もなければ、等級もありません。社会の中で、身体、情報のプロセスの仕方、精神の状況において、社会から抑圧・制限を受けている人が皆、障害者という捉え方です。さらに、障害は自己判断と自己主張なので、同じ体の状況でも、育った家庭環境や考え方、コミュニティーによっては、自分は障害者だと思う人もいれば、違うという人もいます。そんな環境だからこそ、より、社会モデルの視点が理解されているように感じます。一方で、そんな環境だからこそ、介助者保障は日本ほど、手厚くなく、障害者は自ら声をあげ、常、抑圧と闘っているようにも感じます。でもだからこそ、生きにくい者同士が集まって、抑圧と闘うという文化もできあがってきているし、LGBTQsで当事者の人の主張の力があるように思います
質問
インターセクショナリティについて、「道路を歩いていて、何度も車にぶつかる」という表現、なるほど~と思いました。もっと腑に落ちて理解したいのですが、難しすぎない資料はありませんか?論文や日本語以外だと難しいです(ちなみに以前、グーグルしてみたのですが、検索力が乏しいのか、たどり着いていません・・・お助けください)さまざまな立場のひとたちが連帯していくのに、大事なキーワードと思っています。
論文ではないですが、いくつかのブログのリンクを下記に載せてみました。ブログの場合、一般の人達が書いたものなので、比較的わかり良いかと思います
https://fairs-fair.org/nqapia-conference-intersectionality/
https://note.com/asaismorning/n/n3bb023481f88
https://noisie-s.net/works/1105/
質問
ノアさんのお話、また伺いたいです!情報がほしいと思っています。どうすればいいでしょうか。変わるチャンス、いいですね☆
回答
その時々で、講演内容は変わりますが、一応今月ですと、在日アメリカ大使館主催の講演があります。テーマは教育と就職に関してです。
障害のある若者の雇用に関する 日米企業リーダー育成研修 ウェビナーシリーズ
「雇用へのアクセス方法とは?日米の障害のある大学生と若手社会人たちがアクセス確保のための経験を共有する。」
日本時間:2月19日午前9時〜10時30分 (事前登録制・参加費無料)
情報保障: 日英同時通訳、日英文字通訳、日本手話、アメリカ手話
パネリストは、障害のある大学生または若手社会人としてこれまで遭遇してきた様々な障壁について語り、その経験が彼ら自身および周囲の人々の生活を形作ってきた様子を共有する。また、パネリストは、このような障壁が存在する理由(障壁の歴史)について考えを共有し、障壁を克服してきた方法(前進する方法)について語 る。本パネルを通して、障害者雇用の問題点は採用手順の調整のみでは解決できないことを示す。障害のある 若者達が雇用を目指し、望む職に就くには、教育や物理的環境を含めた隣り合わせに存在する社会領域にある障壁を取り払わなければならない。
それ以外に関しては、自立生活夢宙センターのホームページにてノアのアメリカレポートが毎月更新されていますし、NHKバリバラのホームページにてノアのちょっとずつ猪突猛進というタイトルにてブログが毎月更新されていますので、読んでいただければと思います
質問
(ドラッグクイーンについて答えていた部分)すみません、グッドプラクティス(好事例)です!LGBTQで障がいがある人たちのキャリア支援としてグッドプラクティスがありましたら教えてください。
回答
キャリア支援として、沢山のLGBTQsで障害のある人達は、様々なところに就職しています。教授もいますし、バーで働いている人もいれば、幅広く就職して、キャリアUPしています。多分特別な枠にて支援するのではなく、LGBTQsで障害者が普通に就職し、キャリアUPできる社会作りをしていくのが大切なような気がします。
【登壇者】大橋 ノア
【開催形式】録画配信+LIVEでQ&A
当日資料
「アメリカ・シカゴでは、障害を持つLGBTQ当事者(以下、セクマイ障害者)が地域で当たり前に生活している。LGBTQコミュニティにも、障害者を障害当事者が支援する自立生活センターの中にもセクマイ障害者がいることが当たり前になっている。」そう語るのは日本からアメリカに留学した大橋ノア氏である。
大橋氏は電動車いすと人工呼吸器を使用しているトランス男性だ。日本では、自立生活センター「自立生活夢宙センター」のスタッフとして活動しながら、NHKの『バリバラ』のレギュラー出演を務めていた。留学先のシカゴ大学で障害学を学び、5月に卒業。現在は、シカゴの自立生活センター「ADAPT」のリーダーを務め、また「自立生活夢宙センター」の外部顧問も務めているなど様々な活動している。
この分科会では大橋氏の講演から、セクマイ障害者が直面する問題や課題―――介助者について、エンパワーメントや支援について、障害者・LGBTQのコミュニティにおけるアクセシビリティについて―――アメリカでの実態をお聞きする。また、両コミュニティ間での運動の連携についての実践や、アメリカにおける『社会モデル』の概念について、そしてコミュニティ連帯の鍵となる『インターセクショナリティ(様々な差別や抑圧は交差しているという考え方)』についてお話を伺う。また、後半には質疑応答があり、これらの実践や理論についてより理解を深めることができる。
現在、日本はセクマイ障害者が声を挙げづらい状況にあり、つながりも非常に乏しい状況である。その中で、アメリカでの実践や考え方から学ぶことは非常に貴重な経験である。なぜなら、どうすれば障害の有無や程度、セクシュアリティに関わらず全ての人が自分らしく地域で生きていけるか、自分に誇り(プライド)を持てるかということを障害者、LGBTQ、支援者、当事者という垣根を超えて考えていく第一歩となりうるからである。
【メッセージ】
大橋ノアさんよりコメント「LGBTQIA(Queer)の当事者が普通に沢山いる国、アメリカのシカゴより、どうしてアメリカはセクマイ当事者がオープンにいるのか??障害者団体の運動とどうつながっているのか??「誰もが生きやすい社会」という点にフォーカスして、アメリカの実情と私のストレートな分析をオープンに語らせていただきます」
分科会では、大橋ノアさんのご講演の配信後、ライブでの質疑応答を行った。
講演ではまず、シカゴのLGBTQ全体うち42%は障害当事者であることから、障害者コミュニティにおいてもLGBTQの存在は珍しくなく、またLGBTQコミュニティでも障害者がいつでもどこでもいるという実情を話された。その中で自身のセクシュアリティが尊重された体験や、多様なセクシュアリティがオープンになった直接雇用の介助体制について話され、日本にいた際に感じていた抑圧された感覚が解消されていった体験を語られた。また、LGBTQと障害者双方の連携の例として、シカゴの自立生活センター主催の障害者とLGBTQ団体に向けたリソースフェアや、障害者団体とLGBTQ団体の合同パレードについて紹介され、それらの連携のなかで双方が学びを得て、より深い連携を可能にしているということが示された。
次に、これらの連携で核となる考えとして「インターセクショナリティ」という概念についてご教授頂いた。インターセクショナリティとは「交差するアイデンティティ」であり、個人はそれぞれ複数のアイデンティティを持っているが、社会には「こうあるべき」という抑圧的な社会規範が多数存在することから、いくつもの「生きづらさ」を抱えさせられてしまっている人々がいるということである。この「生きづらさ」を「障害」と捉えて、単に医学的・機能的な障害に注目するのではなく、その人が背負わされている困難さは何か、どうすればそれをプライドに変えていけるかということが支援において重要だと強調された。
最後に、LGBTQの障害者が生きやすい環境づくりのため支援者や障害者団体ができることとして、「当事者が安心して話せる場づくり」や「組織と個人を分け、あなたが何ができるかを当事者に聞くこと」など5つの具体的な提案を頂いた。
質疑応答ではたくさんの質問を頂き時間内に答えきれなかったため、大橋さんのご厚意により後日文章にて回答を頂いた。事後アンケートによる評価も「満足した」という回答が75%以上、「今後の実践や研究に参考になることを得られた」という回答が90%以上と非常に高かった。感想の中では『ノアさんのお話から、日本の社会をつくっている一人としてできることをしていこう!という気持ちをまたしっかりと認識しました。』といった実際にそれぞれの現場で実践に移していきたいという意見が多くみられた。このことからも、多くの気付きを得られる機会となった。
大橋ノア
1988年、福島県生まれ。生まれた体の性と実際の自分の思う性別に違いを感じつつ、学ランで高校生活を送ったという地元ではちょっと浮かた存在。2006年、単身渡米。様々な性別やセクシュアリティーの人が側にいる環境に身を置くことが出来たころ、身体の障害が進んだため、日本に帰国。2年間の入院生活、その後、3年間の重度心身障害者施設で過ごした時に、毎日のように、体の性に合うように生活するよう指導され、「女になるしかない」と一旦は覚悟。2011年、東日本大震災の際、大阪に避難、自立生活を送るようになったが、どのようにカミングアウトしたらいいのか分からず、悶々と悩む日々。徐々にしんどくなり、極度のうつ病、PTSDを発症。その後、ここままでは自分がなくなる気がすると思い、再度アメリカへ行くのをきっかけにカミングアウト。アメリカで、名前を変え、自分らしく生きていけるように少しずつ、手探りな中、答えを探し、今に至る