top of page

障害×LGBTQ2021 報告書

分科会では、4人の障害を持つLGBTQのライフヒストリーについてそれぞれ20分程度の収録した動画を配信した。また、今回Googleフォームで各登壇者への質問を受け付けた。

ろう者のレズビアンである山崎悦子さんは聴者の社会で生きていく中で、情報が十分に得られない現状に直面し、その打開策としてろうあ運動と出会い、積極的にコミュニケーションを取っていく楽しさを知り、活動や仕事の中で積極的に他者と関わるなかでパートナーと出会ったという経験を話された。

身体障害と精神障害を持つFTMトランスジェンダーである植木智さんは、自身がトランスジェンダーではないかと気づいた時に障害を持つLGBTQのロールモデルがなく、セクシュアリティを肯定することが難しかった。今後は自らがロールモデルの一つとなりたいと今後の展望を語った。

精神障害をもつMTFトランスジェンダーであるけいさんは、訪問看護やホームヘルパーの支援を受ける時、女性の介助者から支援を受けている。女性としての経験を持っている相手だからこそ安心して相談や介助の依頼が出来、それによってエンパワーされたという経験から自身のセクシュアリティを尊重されることの重要性について語られた。

軽度の視覚障害を持つFTMトランスジェンダーうり坊さんは、幼いころから性別への違和感を持っていた。しかし視力や容姿が人より「劣っている」とされたことや、軽度障害であるために居場所がない中で、戦い続ける日々のを送り、性別に対する違和感を忘れてしまっていたと振り返った。性別移行をした中で感じたこととして、「いくつものマイノリティ性が重なるというのは 不利が重なってしんどいこともありますが、一度した経験を活かせるということでもあります。どこかで見た光景なのです」と力強く語られた。

事後アンケートによる評価は「満足した」と、「今後の実践や研究に参考になることを得られた」という回答がともに80%以上と非常に高かった。感想としても「当事者の話を聞く機会はほとんどないので、初めて聞く内容ばかりで理解が深まった」というような感想が多く、当初の目的である障害を持つLGBTQの存在や思いを知ってもらうという目的は達成できたと思われる。

今後としては感想や登壇者への質問の中でも介護に関するものが多かったことから、「同性介護」を主題とした分科会を開催したい。また、今回は実現が難しかったクロストーク形式の分科会も企画していきたい。

ご質問への回答

質問

「今が幸せ」「諦めない」「一人じゃない」という言葉がとても印象的です。私は精神障害ですが、YOUTUBEに自分が出て行くことは大事なことだし、勇気のいることだと思います。素晴らしいと思います。同時に僕は以前ブログやFaceBookのコメントで嫌な思いをしたのですが、そういう怖さはないですか? 

回答(植木智)

ありがとうございます。まだ、始めたわけではないので漠然としていますが、確かに嫌な思いをするかもしれない怖さはあります。でも、今はそうなったとしても相談できる相手や、気持ちを聞いてくれる友人・仲間がいるから大丈夫だと思っています。それと、怖いという気持ちより、YouTubeで発信することで「ひとりじゃない」というメッセージを伝えたいという気持ちが強いです。・・・まぁそもそも見てくれる人いるのかな?という不安は結構あります。(笑)

 

質問

介助者へカミングアウトされた時の反応も、肯定的だったのでしょうか?介護の現場でも、LGBTQの研修が行われているのでしょうか?

回答(植木智

反応は幸いにも、否定的なものはなかったです。24歳ごろカミングアウトしたのですが、それ以前から下着も含めて服はメンズ、イカツいファッションと今より「男らしく」していたこともあり、「納得した。」とか、「気づいてた」とかそういう反応が多かったと思います。カミングアウトしていない自分に後ろめたさがあったので、「言ってくれてありがとう」とか、「植木さんは植木さんですよ。」と言われて嬉しかった記憶があります。
研修については介助者として働く人が必ず受ける新人研修(事業所主催)の中に「障害と疾病」という「脳性麻痺」や「頸椎損傷」、「筋ジストロフィー」などの障害の特徴・留意点についてのコマがあり、その中に「性同一性障害」を入れてもらっています。文章作りにもかかわらせて頂きました。
セクシュアルマイノリティについての研修は10年以上前から事業所として数回行っています。そういう研修があったこともカミングアウト時の反応に影響をしていると思います。ただ介助者が全員受けているわけではないのでLGBTQ についての理解にはばらつきがあると思います。

質問

「お父さんは、理解がある」とのお話でしたが、カミングアウトされた時から、理解がある感じだったのでしょうか?それとも、時間が経って少しずつという感じだったのでしょうか?

回答(山崎悦子)

カミングアウトしても普通でしたね。
母親と揉めてたのをみて色々考えていたのかもしれません。

質問

セクシュアリティと「同性介護」については、個人的にも考えていきたいと思っていますが、まだ自分の中に考える材料があまりないように感じています。セクシュアリティを踏まえて同性介護を考えるときに、ポイントとなることというか、何かご助言いただけることがありましたら教えていただきたいです。

回答(植木智

まず、同性介護は障害者の性がないがしろにされてきた歴史から障害者の尊厳を守るためのシステムである一方で、異性愛主義と性別二元論論が前提としてあるということがLGBTQの障害者や介助者に対し抑圧的であるという現状を理解することが必要です。その上でLGBTQの障害者・介助者の尊厳が守られるような環境づくりができていけばと思います。LGBTQの障害者や介助者は顕在化していないだけで「レアなケース」ではありません。そういう認識のもとで事業所や、当事者団体がLGBTQについて知ること、同性介護について様々な立場の人が安心して平等に話し合えたらいいのではないかと思います。
もう少し具体的にいうと生物学的性別・性自認によって画一的に介助者を決めるのではなく、個々の身体状況やセクシュアリティに応じた個別的、継続的な対応が必要だと思います。理由としては、性自認・性的指向は多様性・流動性があることや、障害・疾病の変化によって必要な介助も変わってくることから、その人に合った介助体制を時間をかけて当事者と考えていくことが大切だと思います。当事者自身もどのような介助体制が自分にとってしっくりくるのかということは、経験してみないと分からないと思います。実際に私の場合は2年間掛けて女性介助者から男性介助者に移行しました。今は通常は全員男性介助者ですが、婦人科系の病院に行くときは女性介助者にお願いしています。また、カミングアウトを受けて介助体制を考えて終わりではなく、継続的な支援も必要だと感じます。移行当時は私自身や介助者に対するフィードバックが乏しかったので、不安になることもありました。今後重度化して身体介助が今より多く必要になった時、どうするかまだ答えは出ていません。このようなことから介助体制の構築中はもちろん、構築後も相談できる関係性が必要だと思います。
そのためには、LGBTQの障害者や介助者が安心できる環境作りが必要です。LGBTQやSOGIについて知ること、ハラスメントについて知り、自分と相手の権利を尊重することを考えるなどの機会があるといいと思います。もう少し踏み込んだことを言うと、利用者・介助者がLGBTQ当事者かどうかに関係なく(でも特にLGBTQ当事者でない人が)、介助現場で相手を性的に「見ること」「見られること」があるという可能性について自分がどう向き合うのか、(葛藤するかもしれないけど)「嫌だ」で思考停止せずに自分の問題として取り組むことや、そのきっかけとして身近な人と話せる範囲で話をしてみるといいかもしれません。

質問

医療福祉の従事者には、正しい知識を得て、対等な関係づくりをお願いしたいとの思い、同感です。そのために、具体的に行政に求めることはありますか?

 

回答(けい)
実はあまり運動方面には詳しくないのですが、Beすけっとさんとりんぐりんぐさんは多少お付き合いがあります。Beすけっとさんにはトランスジェンダーのことを機関誌に載せてもらったことがあります。りんぐりんぐさんは「障害者と戦争」という差別問題を考えるトークイベントをずっとされています。
自立生活センターBeすけっと http://www.kobe-biscuit.jp/
自立生活センターリングリング http://www.ringring.bz/

 

感想
質問でないのですが、本当に貴重なお話しありがとうございました。トランスでADHD当事者の一人としてなかなかロールモデルに出会えない中、先輩方のお話しを聞けてとってもエンパワメントをいただきました。

 

応答
ありがとうございます、分科会でもお話ししましたが,、自分はセクシュアリティに疑問を持った時にロールモデルがなくてしんどかったので今のような活動をさせてもらっています。なのでこのようなご感想を頂いて本当にうれしいです。(植木)

ありがとうございます。じつはうちの子もADHDなのですが、外から見えない障害という面で弱視と似たしんどさがあるような気がします。今後、軽度障害×トランスジェンダーの集まりも企画してみたいですね。(うり坊)

今回はろう者でLGBTQとしてのお話をしましたが、ろう者・ビアン・トランスヴェスタイト・双極性障害・発達障害(ADHD?)……と色々あり、まだまとまっておらずそのあたりは差し控えました。双極性障害も持っていまして、発達障害の可能性もあり受けた医療検査の結果がもうすぐ出ます(この2月末の予定)。仕事でなかなかうまくいかず悩んでいます。(山崎悦子)

質問
・実際、LGBTQを理解してる介助者はどれくらいいる?(植木さん)
・老後のLGBTQトランスジェンダー当事者たちへの訪問ヘルパーについて、もしトランスジェンダー当事者のスタッフだったら受け入れられる?(けいさん)
・障害のせいで「性的違和感を忘れてしまった」について、障害者差別問題がまだあること痛感してる。差別問題を取り組んでいる団体とかありますか?(うり坊さん)

LGBTQについて理解しているというより、トランスジェンダーである私を理解して介助に入ってもらっています。もちろん身近な人にLGBTQ について理解してもらいたい気持ちはありますが、介助時間は介助を受ける時間だし、精神状態もまちまちなので、積極的に伝えているわけではありません。でも、LGBTQ について聞いてくれる人もいるのでそれは嬉しいです。

講演者

19_障害×LGBTQ2021_植木.jpg

植木 智

1985年生まれ。脳性麻痺による身体障害者。セクシュアリティはFTMトランスジェンダー。2004年に介助サービスを利用しながらの一人暮らしを開始。大学で社会福祉を学び、社会福祉士の資格を取得。2009年〜2016年まで自立生活生活センターで障害当事者スタッフとして活動。また、2010年にカミングアウトを開始し、身体障害をもつトランスジェンダーとして介助者を段階的に女性から男性に移行し、現在は男性介助者の支援で生活している。

19_%E9%9A%9C%E5%AE%B3%C3%97LGBTQ_%E3%81%86%E3%82%8A%E5%9D%8A_edited.jpg

うり坊

先天性白内障の三代目。といっても一族で最も軽度なので、介助者として育つ。晴眼者扱いで大学までいき、そこでついについていけず鍼灸マッサージの資格を取りに盲学校へ入学。実は性別違和は幼いころからあった。しかし、学生時代は晴眼者との戦いの日々で、セクシュアルマイノリティについて深く考える余裕はなかった。障害コンプレックス克服物語最終章として結婚。子育ての中で「いわゆる女子」のわが子を見て、ずっと自身の中にあった違和感に気づく。離婚後、男性として暮らしている。

19_障害×LGBTQ_けい.png

けい

精神障害があり、日常生活の支援として家事についてヘルパーを利用して暮らしている。訪問看護も利用。セクシュアリティはMtX(かなり女性寄り)。病院で医療従事者として勤務した経験がある。

19_障害×LGBTQ_けい.png

山崎悦子

ろうレズビアン。2018年7月からろう虹色塾の代表を務める。ろう虹色塾は関西を中心としたろう者かつLGBTQ当事者のための研究会。ろうLGBTQ当事者自身が自らの問題(困りごと)に向き合い、仲間とともに研究したり、セクシュアリティやLGBTQ関連の講演会や研修、企画の実施等を進めている。

【登壇者】
植木智、うり坊、けい、山崎悦子

【開催形式】録画配信

      当日資料​(植木)

 長年、障害者の性についてばタブー観されてきた。しかし、近年にかけて障害当事者や支援者による実践や発信、障害学による研究が行われ徐々にではあるが,障害者の性に対する認識は肯定的なものに変化しつつある。また、女性障害者の人権についても国内外で権利擁護の運動がなされている。しかしながら、セクシュアルマイノリティの障害者(以下、セクマイ障害者)についてはまだほとんど取り組まれておらず、問題の顕在化も不十分である。

 これまで「障害があること」、「セクマイであること」は長年スティグマ化されてきた。このことからセクマイ障害者は、複数の抑圧や偏見の中を生きざるを得なかった。また、物理的なバリアや、「同性介護」「日本手話」など障害者の生活に深く関わる文化やシステムにおいてもセクマイ障害者が使いづらい資源は少なからず存在している。そのため自身のセクシュアリティを肯定しづらく、自分らしい生活を送ることに困難さを抱えている当事者は多いと推測される。ろう者セクマイは横のつながりを構築できているが、他の障害に関しては繋がりをもつための資源は極めて少ないことが現状であり、ロールモデルの獲得が困難である。そのような状況下で肯定的に自己を捉え、社会とつながっていくにはどうすればよいだろうか?

 このような問いから分科会では、どのような障害・セクシュアリティであっても当然の権利として本人の自己実現が可能な社会の実現のため、セクマイ障害者の「語り」から、多様な性を持つ障害者の存在を顕在化し、肯定的なメッセージを発信したい。そして、一人一人の語りから、どのような困難を感じてきたか、どのような願いを持っているかという、医療・福祉領域や障害・セクマイ双方の当事者活動等における今後の課題やニーズを明らかにしていきたい。

​【メッセージ】
あなたの周りにセクマイの障害はいますか?まだまだその存在が知られていないセクマイ障害者。どのように生活している?どんなことが困難?障害者であることと、セクマイであることの関係は?私たちの存在、経験、思いを聞いてください。障害・セクシュアリティに関わらず自分らしく生きられる社会を一緒に作っていきませんか?

bottom of page